徒然草−日々思う、あんなこと、こんなこと。−
 


*百七十七段*<想い出の断層−57−>2008.10.27



 もう10月も末になった。不思議に月末になると、ああ、今月も終りに近いな、と時の過ぎる速さを感じる。電車に乗っていると、少しだけ木々が色づき始めた。季節の移り変わりを感じられるようになったことを喜ばなければならない。

 随分前になるが、勤務先が遠くなったときに、尊敬するO先生は、車から見える景色を楽しめ、とアドバイスをして下さった。そう思うように心掛けたのだが、楽しむまでには至らなかった。毎日の繁忙さに余裕がなかった。余裕がないときには、自分以外のものに、心を傾けることが出来にくくなる。

 電車の乗り換えのホームに、立ち食いの蕎麦屋さんを見かけた。駅そば、とも言ってたような記憶がある。駅のエントランスや改札外にあるのではなくホームにあるのが、正しい「駅そば」だと勝手に決めているのだが。その「駅そば」・・・といえば高校時代に、この徒然草にも登場したことのある友人のK君と帰りによく食べたことを思い出した。

 高校の制服が黒の詰め襟の学生服だった。着替え用は持ってなく、年に一回くらいはクリーニングに出していた。
 あるときのその学生服の、右袖の先が汚れているのに気がついた。よく考えると思い当たるのが、その「駅そば」を食べているときに、そばをすする”そばつゆ”が、どうも袖にかかるらしいことが解った。それで、それ以降は、蕎麦を食べるときには学生服の袖をまくって食べることが二人の了解事項となった。食べる前に、二人揃って右袖だけを一つ折り曲げ、裏地のベージュ色を見せながら蕎麦を食べていた姿は、思い出すと笑いが浮かぶ。

 その「駅そば」は、店舗の場所が変わり、もちろん店もリニューアルして大きく立派になったのだが、当時のおもかげが全く残っていないのが、いささか寂しくもある。
 店の近くに寄るとにおってくる”そばつゆ”の匂いは昔と変わらず食欲をそそるし、その香りだけでも嗅ぐことができるのはうれしいことだ。



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