徒然草−日々思う、あんなこと、こんなこと。−
 


*三百十七段*<メンデルスゾーンの思い出>2009.8.12

 メンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」の指揮まであと十日になった。この曲にはことさらの思い出がある。初めての30pLPレコードで聴いたのが「イタリア」と交響曲第5番「宗教改革」だ。録音はモノラル、ビクターレコード、指揮がシャルル・ミュンシュ、ボストン交響楽団の演奏だ。このとき、最初の歯切れのいいリズムに乗って現れる主旋律をわくわくしながら聴いた(「わくわく」なんて久しぶりに使う言葉だ)。テープレコーダーから出る音、レコード盤から出る音、理屈がわからない少年としては、まさしく魔法のごとく思えた。

 洗濯機や炊飯器や蛍光灯のまばゆさよりも、何かから音が出ることへの興味というか、驚がくに近いあの感覚は今でも新鮮だ。ステレオ機器なんて夢だった。我が家にナショナルのステレオ装置が来た時の喜びもひとしお印象深く覚えている。パイオニアにするかナショナルにするかで迷ったことも懐かしい。

 ああ、あの時のまぎれもない喜びは何だったのだろうか。楽器も何もない我が家で音楽に触れるのは「聴く」ということであった。兄弟四人の中で音楽に興味を持ったのは私一人、その興味をしぶとく追い続けたのも私だけだった。父親は「音楽は趣味にしろ」と常に言っていた。そんな中で音楽をやるには、周りの説得も必要だった。長兄、今は亡き叔父、二人が父親の説得にあたってくれた。その時はあまり思わなかった感謝を今は深く感謝し心に刻んでいる。

 ところで「宗教改革」は一度か二度、指揮をしたことがある。何といってもコラールの旋律が好きだったし、(ブラームスの一番の交響曲の第4楽章、弦楽器だけで奏されるコラールも好きだ)あまり取り上げる人もいなかったこともある。
 「イタリア」は弦楽器の細かな音の動きが、取り上げるのを躊躇させていたともいえる。ようやく、その危惧を乗り越えてのプログラミングになった。それはオケの若いメンバーの成長によるところが大きい。私の指揮をする「ちば室内管弦楽団」は教育や研鑚や研修課程のオーケストラだ。ここを踏み台にして大きくジャンプする人を育てる、という意味がある。もちろん若い人を育てるにはベテランの力が必要だ。そんなことを考えながら今回の定期では、各楽器のトップおよび1プルトに若いメンバーを起用する。

 メンデルスゾーンは、20歳のころにイタリアやスコットランドに旅をしたそうだ。若者メンデルスゾーンがその時の鮮烈な印象を交響曲にしたと考えれば、若いメンバーがその曲にチャレンジする意味もあるというものだ。おりしもメンデルスゾーンは1809年生まれ、生誕200年の記念すべき年でもある。

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