徒然草−日々思う、あんなこと、こんなこと。−

*七段*<ラジオ放送>2007.9.23

 前回の「徒然草」でテレビの映像からの指揮者像を少し書いた。大指揮者を漏らしていた。ロンドン交響楽団と来日した、ピエール・モントゥーだ。この時は最晩年で90歳に近かった、あるいは越えていたか。とにかく悠々迫らぬ演奏というか、長い指揮棒でロンドン響のメンバーの尊敬を一身に集めていた感じが、白黒のテレビからも伝わってきた。「パパ・モントゥー」と団員に慕われていたそうだ。知的とか冷静とか激しいとか、そんな言葉では表現しにくい、もっと人間らしいというか、人生の先達者の指揮とでもいったらよいのか…。
 このような話を当時、早稲田大学の学生であり、習志野一中の卒業生だったT君にしてみた。彼が生まれる前か幼かった頃の記憶にない話なので、いかに素晴らしかったかを話すと、うらやましそうに、そして、それだけで尊敬をしているかのような表情をしていた。若者の尊敬を得るには、その人の生まれていない頃の話をすればいいのだ!と、その時に学んだ。(ただし、興味のある分野についての話だが…。

 ラジオでは、まだFM放送が試験放送をし始めていたころかと思う。中波の放送しか聞けなかった。ステレオでの放送は、ひとつの放送局では不可能なので、(日曜日の午後2時から3時と記憶しているが)文化放送とニッポン放送が協力し、片方が左のチャンネルを、片方が右のチャンネルを放送し、ステレオにして放送してくれた。モノラルの音に比べ、まるで別世界の音に聞こえた。やはり、当時の放送関係者はクラシック音楽やオーケストラ音楽を広く提供するのだ、という使命感を強く持っていたのだと思わざるを得ない。高志の放送人だったのだ。
 夜には、村田武雄さんや志鳥栄八郎さんなどの第一線の音楽評論家が解説をしてくれる「クラシックベストテン」が定時に放送され、「聖母の宝石」間奏曲が常に一位で、「ペルシャの市場にて」「チゴイネルワイゼン」「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲、「エリーゼのために」「乙女の祈り」「ドナウ川のさざ波」「スケーターズワルツ」「金と銀」・・・。数え上げればいくらでも出てきそうだ。こんな曲がベストテンの上位に入っていた。

 生きることへの疑問や死に対しての恐怖、理想と現実のギャップ、自己表現のできないもどかしさなど、解決できないことに苦しんでいた自分に、これらの曲がどれほど勇気を与えてくれただろうか。まさに心の糧だった。

      
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